[公開授業レポート]児童生徒が1人1台の「toio」を活用! 千葉県流山市との産官学連携による「先進的統合型プログラミング教育(小・中学校の9カ年を対象)」がスタート

2021年12月 1日

千葉県流山市立東小学校での公開授業実施レポート

 2021年7月から、千葉県流山市の市立小学校と中学校で、児童生徒が11台の「toio(トイオ)」(発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント/以下SIE)を使ってプログラミングを行う授業が始まりました。

 この授業は20216月に千葉県流山市が発表した「先進的統合型プログラミング教育」の取り組みによるもので、東京理科大学が、株式会社内田洋行との共同開発によるカリキュラム案の提供、授業支援のための学生派遣など、様々なサポートを行う「産官学」連携プロジェクトです。東京理科大学は、野田市に理工学部などのキャンパスがあり、最寄り駅が流山市にあることから、これまでも2つの市と学校教育をはじめとした地域の課題解決に連携して取り組んでいます。SIEは、流山市の「先進的統合型プログラミング教育」において、技術サポートと教材提供で協力を行っています。

 現在、流山市内の4つの小中学校をモデル校とし、「toio」を使ったプログラミング教育を取り入れた授業が実施されています。202111月には、モデル校のひとつである流山市立東(あずま)小学校において、メディアを対象とした公開授業が行われ、小学3年生の「総合的な学習の時間」と5年生の「算数」で、児童が「toio」を使ったプログラミングに挑戦しました。

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3年生の「総合的な学習の時間」で行われたアンプラグドプログラミング。

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5年生の「算数」の授業では、「toio」で多角形の作図に挑戦。

事例1:小学3年生「総合的な学習の時間」

~パソコンを使わないアンプラグドで楽しく学ぶ~

 3年生で行われたのは、総合的な学習の時間の単元「昔のくらしと道具」です。

 担任の三澤志緒里先生は、プロジェクターに昔と現代の道具の写真を映し出し、子どもたちに問いかけをしながら、その違いを確認していきます。「昔の道具と異なり、現代の私たちが使っている道具の多くにはプログラムが使われている」という前時までのふりかえりの後、「プログラムをつくること=プログラミング」の実践を通して身近にある機械の仕組みを学びます。

 使用した教材は「toio」の専用タイトルである「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」です。プログラミングの問題が掲載されている物語仕立ての絵本、紙の「めいれいカード」、かわいらしいキャラクター人形がセットになっており、「toio」に人形を装着して使用します。

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toio」の専用タイトル「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~

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児童1人につき、「toio」が1セット用意されています。

 「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」では、絵本のプログラミング問題をひとつずつ進めていくことで、スモールステップでプログラミングの基本的な考え方を楽しみながら身に付けていきます。前回までの授業では「いっぽすすむ」「ひだり/みぎをむく」というもっとも簡単な命令だけ使っていましたが、今回は「くりかえし」と「アクション」という2つの新たな命令を追加し、プログラミングに組み込んでいきます。

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絵本に描かれたゴールをめざし、一人ずつ用意された「めいれいカード」を順に並べてプログラミングをします。

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先生は、「めいれいカード」をボードに並べて解説。

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「この場合はどうすればいいかな?」という問いに、多くの子どもたちから手があがりました。

 11台のロボットが用意されていることで、子どもたちは各々のペースで考えて取り組むことができます。隣の友だちの「めいれいカード」の並べ方を見たり、友だちが発表したプログラムを見たりして、「正解はひとつではないこと」「『くりかえし』などの手段を使うことで、もっと簡単にプログラミングできる方法があること」などを学んでいきます。

 子どもたちの進め方も様々で、すぐに正解を見つける子がいる一方で、なかなかゴールにたどりつけない子もいましたが、一度うまくいかなくてもそこで諦めることなく、めいれいカードを入れ替えては何度も挑戦している姿が印象的でした。

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見事にゴールにたどり着き、思わずガッツポーズ。この授業では自分で正解を見つけて喜ぶ姿を、沢山見ることができました。

【子どもたちの感想】

「プログラミングを自分で考えるのが楽しい。めいれいのカードが準備されているので、わかりやすかった」

「toioが話すのが、本当にしゃべっているみたいでかわいい」

「ゴールにたどり着くとtoioが喜ぶから、自分もうれしくなりました」

「『くりかえし』のところでは何回くりかえせばいいのか悩みましたが、おもしろかったです」

【3年生担任:三澤志緒里先生】

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自身も3歳の母であるという三澤先生。「子どもと一緒に『toio』をやってみたいですね」と話してくれました。

toioを初めて見たときは、『こんな小さなキューブが思った通りに動くんだ!』と、とてもワクワクしました。ただ私自身は機械が得意でなかったので、『toio』の接続や充電の方法など基本的なところから学ばなければいけないことに、最初は難しさを感じました。

今回使用した『GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~』はマニュアルが用意されているので、それを読みつつ、子どもたちと一緒に試行錯誤しながら授業を進めています。子どもたちがゴールまでたどり着いて喜んでいる姿を見ると、とても達成感があると感じています。今回は新しい『くりかえし』などに挑戦しましたが、全員がゴールできて進めていけたので、やってよかったです。

 『toio』は操作もわかりやすく、子どもたちも楽しく取り組んでいるので、低学年の授業でも有効です。この先には『条件分岐』なども出てきますので、クラスのみんなで考えながら、一緒にゴールしていきたいと思います」(三澤先生)

事例2:小学5年生「算数」

~画面だけで完結しないロボットプログラミングの面白さ~

 高学年の事例として、5年生の算数で「正多角形と円」の授業が行われました。この単元は、文部科学省の「プログラミング教育の手引き」のA分類(学習指導要領に例示されている単元として実施するもの)の指導例にも挙げられており、プログラミングを通じて正多角形の性質などを学び、かつ、人間が手で描くより、正確に何度も作図できるコンピュータの特性を理解します。

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 流山市では、GIGAスクール構想を受けて、2021年度から市内小中学校の全児童生徒が、11台のWindows10を搭載した2in1のノートPCを使用しています。くわえて、11台の「toio」が用意されたことで、子どもたちは自分の端末を使って、各々が正多角形を描くプログラミングに挑戦し、現実のロボットを動かすことに挑戦しました。

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toio」のビジュアルプログラミングアプリ「toio Do」を使って、命令のブロックを組み合わせる操作でプログラミングしていきます。

 担任の鈴木昴平先生は、授業の始めに前時までに学んだ正多角形の性質を振り返りました。そのうえで、「今回は正七角形をプログラムで描いてみましょう」と呼びかけます。これまで正六角形や正五角形のプログラミングを体験してきた子どもたちは、すぐに自分の端末でプログラミングを始めますが、あることに気付きます。

「あれ、まずいよ」とつぶやく子もいるように、角度が割り切れないことにとまどいを見せる子どもたち。四捨五入をした数値でプログラミングをしてみますが、正確な正七角形にならず、頭を抱えてしまいます。

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「どうすればいいと思う?」という鈴木先生の問いかけに、「分数」と答えた子の回答を聞き、多くの子どもたちが「あーっ」と声を挙げました。気づきを得たところで、再び端末に向かい、今度はビジュアルプログラミングの「演算」機能を使って正七角形を描くプログラムに挑戦します。

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真剣な表情で「toio」の動きを確認し、正確な正七角形を描けるまで、何度も挑戦していました。

 ここでも子どもたちの進み方には個人差が大きく、得意な子は「toio」が正確に正七角形に動く様子を満足気に眺め、悩んでいる友だちのところへ助けに行きました。黙々と一人で取り組む子もいます。これまでロボットを使う授業では、多くの学校でグループで取り組むケース(ロボット1台を複数人で利用)が見られました。しかし、GIGAスクール構想によって11台の環境が整ったことで、「toio」を11台使うことが容易になり、各々の理解度に沿って進めていけるようになりました。

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授業には、「toio」のカリキュラムを考えた東京理科大学の学生が参加し、子どもたちのサポートを行っています。

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教室の中では、自然に教え合いや学び合いが生まれていました。

【子どもたちの感想】

「今回は外角などを計算しなければいけないので難しかったですが、『toio』を自分の思い通りに動かせるところが楽しかったです」

「手でうまく描けない図形を『toio』は簡単にできる」

「楽しみながらプログラミングができました。プログラミングだと、六角形や四角形などを描くのに便利だし、効率がいいこともわかりました」

「外角の数字が四捨五入してもうまくできなかったけれど、プログラミングで悩みが解決されていくのがおもしろかったです。ちゃんと数字を入れれば、分度器などの道具がなくても正確に図形を描けるところが楽だと思いました」

「『toio』を使って、みんなが楽しめるプログラミングにも挑戦してみたい」

【5年生担任:鈴木昴平先生】

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最初は「子どもたちが喜ぶ」という期待と、「教えられるか」という不安が半々だったと話す鈴木先生。

 「今回の算数のように、正多角形を作図するためには、まず子どもたちが算数の知識を持っていないとできません。『プログラムで作図する』という簡単なことではなく、知識の利用とプログラミングの両方を行っていくところに難しさは感じました。

 しかし、授業を行ってみると、算数の苦手な子どもたちもものすごく楽しんで積極的に考えたり、作図のプログラミングに挑戦したりしていました。初めて『toio』を触って直進の動きをプログラミングしたときも、自分でロボットを動かせたことに大きな喜びを感じて、『次は何やるんですか?』という質問が、子どもたちから沢山寄せられました。

 画面上で動くだけでなく、ロボットを自分で動かしていることで、その喜びは倍になります。子どもたちにとって、とてもよい経験になっているので、今後もぜひ『toio』を使った授業を行っていきたいと思います」(鈴木先生)

現実のロボットを動かし、段階的にプログラミングを学べる「toio

 今回、流山市のプログラミング教育に「toio」が採用された背景には、2つの大きな理由があります。

 ひとつめが、画面の中だけで完結せず、現実のロボットをプログラミングで正確に動かすことができる点です。「toio」を教材として提案した、流山市ICT教育推進顧問を務める東京理科大学の滝本宗宏教授は、「位置検出機能をもつ『toio』は、自分がプログラミングした通り正確に動く。自分の直感と一致した動きをする実際のロボットをプログラミングで動かす体験によって、子どもたちは、よりプログラミングの実感を持つことができる」と、その意義を話しています。

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東京理科大学 理工学部 副学部長/情報科学科 教授の滝本宗宏氏

 ふたつめの理由が、小学校から中学校までの9か年に、途切れることなく同じ教材で段階的にプログラミング教育を実施できるという点です。「toio」は、子どもの興味関心や成長進度にあわせて、3種類のプログラミング体験を用意しています。

 今回3年生で使用したアンプラグド教材「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」の「初級編」に続き、中級編にあたる「ビジュアルプログラミング編」は小学校中学年から中学生まで活用できます。さらに、本格的なプログラミング言語「JavaScript」にも対応しているため、高校や大学の研究室などでも幅広く「toio」は活用されています。

 流山市教育委員会指導課の松山秀行課長は、「さまざまなプログラミング教材があるなか、『toio』は小学校だけではなく中学校まで一貫して、ロボット教材でプログラミング教育を成し得るところが導入の決め手となりました。正確に動き、子どもたちの思考を表現してくれる小さなロボット『toio』は、これからの教育に有効だと考えています」と、「toio」への期待を語りました。

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流山市教育委員会指導課の松山秀行氏

「『toio』の楽しい体験を通してプログラミング的思考を養っていきたい」

 今回公開授業を行った流山市立東小学校の校長を務める永山俊介先生は、「プログラミング教育は、ともすればただコンピュータを使って子どもたちにプログラミングを教えていけばいいと捉えがちですが、本来は『プログラミング的思考を培っていく』ことが大きな目的です。『toio』はPCを使わなくても、絵本を読んでいくような感覚で、プログラミング的思考を養えることが魅力です」と話しました。さらに、「東京理科大学、そしてICTを専門とする企業が、それぞれの知見を子どもたちのために積極的に活用していくことはとても意義が大きい。学校間でもネットワークを組んで情報を交換し合い、それが市内に広がり、さらに全国へ広がってほしい」と、今後の「先進的統合型プログラミング教育」に期待を寄せています。

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流山市立東小学校校長の永山俊介先生

 同校の教務主任を務める宮﨑将史先生は、「初めて見たときはおもちゃみたいだった」と、「toio」の第一印象を伝え、「親しみやすい形で、低学年のプログラミング教育の導入においてアンプラグドにピッタリだと感じました」と話します。

 子どもたちが「toio」に触れている様子を見ると、「楽しさや驚きを感じている様子が伝わってきて、見ているこちらも楽しくなってくる」と、その魅力を語りました。そして、これからのプログラミング教育における課題として、「身のまわりにプログラミングが溢れていて日々その恩恵を受けていることを、子どもだけでなく、教員もまだまだ知らないと思いますので、第一にそこを知っていくこと」を挙げました。

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流山市立東小学校 教務主任の宮﨑将史先生

 「コロナ禍にあって、ICT教育の期待値や必要性が高まりました。これからの時代を担う子どもたちにとって、プログラミング的思考をしていくことはとても大切です。『やってみてわかった! 楽しい!』と実感できる『toio』を、子どもたちの教育に生かしていきたいと思います」(宮﨑先生)

教育現場の声を受けて専用アプリ「toio Do(トイオ・ドゥ)」の機能が向上

 SIEでは、20213月から、従来の専用プログラミングアプリ「ビジュアルプログラミング」をベースにした「toio Do」を無償で提供しています。

 「toio Do」にはすぐにあそぶことができるサンプルプログラムが複数入っているほか、プログラミングの基本となる「順次」や「繰り返し」「条件分岐」などを学べるプログラムも収録されています。

 202112月のバージョンアップでは、パソコンで追加アプリ(Scratch Link)をインストールしなくても「toio Do」ブラウザー版だけでtoioのキューブとの通信ができるようになりました(Chrome/Edgeブラウザーのみ対応)。アプリやソフトのインストールが制限されている自治体や学校でも、ブラウザーさえあれば追加インストールの必要なく「toio Do」を利用することができます。

 バージョンアップのリリースに先駆けて、流山市のモデル校では実際に最新版の「toio Do」を使って授業に活用していただいています。今後もSIEでは、教育現場で実際に「toio」を使っている先生や児童生徒のご要望をリサーチしつつ、より手軽に使っていただけるように改善を行っていきます。

「toio Do」v1.3での主な変更点

  • ブラウザー版では追加アプリをインストールしなくてもキューブと通信可能に
    Windows/Chromebook/MacChrome/Edgeブラウザーのみ対応)
  • URL指定でプログラムを直接開くことで授業でのサンプルプログラムの配布が容易に
  • 教室で複数のtoioを運用する場合に区別できるよう、3桁の識別番号を表示可能に